未経験 5 人に入社前の半年間の無料研修をして、社員になったのは 1 人だった、という記事のタイトル画像

【実録】未経験 5 人に半年教えて、社員になったのは 1 人【採用】

今回は「未経験の 5 人に入社前の半年間、無料で研修をして、社員になったのは 1 人だった」という話をします。教えるのにかかる研修の時間は見積もれても、案件を取って独り立ちするまでの年数は見積もれませんでした。解説します!

未経験 5 人に入社前の半年間の無料研修をして、社員になったのは 1 人だった、という記事のタイトル画像

こんにちは。ダタク @iQeeeda です。

「未経験の人に教えて、そのまま働いてもらえばいいのでは」
2020 年の秋、僕は本気でそう考えていました。
結果から書くと、社員になったのは 1 人だけでした。
その人も 4 か月あまりで辞めています。

当時いちばん気にしていたのは給与をいくら出すかでした。
でも実際にいちばん大きかったのは、給与ではありませんでした。

結論: 未経験採用の最大のコストは独り立ちまでの時間

先に結論です。

  • 入社前の無料研修を受けたのは 5 人。半年続けて社員になったのは 1 人
  • 給与は基本給 20 万円 + 歩合。案件が決まらず歩合は出なかった
  • 採用条件として考えたのは、来てもらう方法と辞めさせない方法
  • プログラミングを教えるのは難しくない。研修にかかる時間も見積もれる
  • 見積もれないのは、案件を取って独り立ちするまでの年数
  • いま採用で見るのは、AI エージェントで何をしたか

今回は「未経験の 5 人に入社前の無料研修をして、社員になったのはひとりだった」という話をします。
うまくいかなかった原因は、教え方ではありません。
独り立ちするまでにかかる時間を読み違えたことでした。

それでは書いていきます。

入社前の無料研修から社員登用までにやったこと

起きたことを時系列で並べます。

2020 年 9 月の研修開始から 2021 年 8 月に社員が退職するまでの時系列図 (研修内容は LAMP 構成の基礎)
  1. 2020 年 9 月末: 就職希望者が集まり、翌日からプログラミング研修を始めた
  2. 同年 10 月: LAMP 構成 (Linux / Apache / MySQL / PHP) の基礎をみっちり教えていた
  3. 2021 年 4 月: 社員になったのはひとりだけ
  4. 同年 8 月: その人も退職

研修を始めたときの希望者は 3 人で、受けたのは最終的に 5 人です。

このうち 4 人は、社員になる前に離れていきました。

研修の中身は適切だったはず

内容は僕自身が職業訓練校と実務で学んだことをそのまま活かしました。

研修をやっていた頃、業務委託のエンジニアから「掛け持ちの案件やってなければ、その研修に参加したかったっすわ」と言われています。

外から見て参加したいと思う程度には、やっていたことは的外れではなかったはずです。

零細企業なりに立てた、未経験採用の計画

計画を書いたとき、条件として並べていたのは 3 つです。

  • 基本給と歩合を合わせて、月 30 万円まで出すこと
  • 手に職がつく案件を任せること
  • 社長である僕と気が合うこと

未経験の採用は「安く雇える」という話になりがちだと思います。
でも零細企業には、そもそも人が集まりません。
だから未経験にも、それなりの給与水準を出すつもりでいました。

基本給 20 万円に、案件の歩合を足す設計だった

考えていた形はこうです。

  • 基本給は月 20 万円
  • 案件が決まったら、売上に応じて歩合を足す
  • 単価 60 万円の案件なら、本人の取り分は 30 万円くらいが目安

案件に入るほど収入が増えます。
本人にとっても分かりやすい形にしたつもりでした。

ただ、この設計は案件が決まることが前提です。
決まらなければ、基本給の 20 万円から動きません。

育てる場所は、ひとつも取れなかった

未経験を育てる案件は、結局ひとつも取れていません。

育てる場所がひとつも取れなかった内訳の図。クラウドソーシングは早い者勝ち、入札サービスで買えるのは商談の権利だけ

新規の営業が、まず難しかったです。

  • クラウドソーシングは早い者勝ちで、実績も見られる
  • 入札サービスは費用がかかるうえ、買えるのは商談の権利だけ
  • 破談どころか、音信不通になることも多い

ゼロから案件を取りにいくのは、思っていたより大変でした。

やってもらっていたのは、営業と学習でした。

考えていたのは、来てもらう方法だけだった

当時気にしていた採用条件と、見落としていた独り立ちまでの年数を並べた図

いま見ると、最初に並べた 3 つは、どれも来てもらって、辞めずにいてもらうための条件でした。
育てるのに何が要るかは、1 つも入っていません。

お金を出す気はありました。
見落としていたのは、別のものです。

歩留まりの数字は、自分の経験で知っていた

僕自身、職業訓練校を出てこの仕事に就きました。
同期は 30 人ほどいて、エンジニアとして続けられたのは 5 人くらいです。

残るのは 6 人に 1 人。
この数字を、自分の目で見て知っていました。

身内 2 人に教えて、失敗したこともあります。
原因はフォローが足りなかったことでした。
そこから「初学者は放置してはいけない、付きっきりで教えるしかない」という結論も出しています。

経験から知っていた歩留まりや必要なフォローと、採用計画に入れた条件を比べた図

その教訓を活かしたつもりで、研修は僕がやりました。
LAMP の基礎をみっちり教えています。

やり方はこうです。

  • 平日は自宅で E ラーニングを進めてもらう
  • 週末に集まって、その解説と掘り下げをする
  • 質問もその場で受ける

ただ、開始から 2 週間ほどで問題が出ました。
自宅でやってこない人は、何もやってこないのです。
週末に集まっても、進んでいなければ解説のしようがありません。

付きっきりになれたのは週末だけで、平日の 5 日間は本人任せです。
自分で出した「付きっきりで教えるしかない」には届いていませんでした。

辞めずにいてもらう工夫は、条件に入れていました。
ただ、何人残るかという数字は置いていません。
そして社員になったのは 5 人に 1 人です。
続けられたかで見れば 4 か月後に 0 人なので、知っていた数字より悪いくらいでした。

見積もれるのは、教えるところまでだった

研修をやっていたのは僕です。
案件も掛け持ちしていたので売上は止まりませんでしたが、僕名義の SES 案件なので、未経験を入れる枠はありません。
自分の稼働も火の車でした。

システム開発のやり方を教えること自体は、難しくありませんでした。
研修が何回ぶん必要かも、ある程度は見積もれます。

見積もれなかったのは、その先です。
案件を取れるようになるまで、独り立ちできるまでに何年かかるのか。そこが分かりませんでした。

歩合は一度も発生しなかった

いま freee の給与明細を見返すと、実際に払ったのは基本給だけでした。
案件が決まらなかったので、歩合の出番がありません。

基本給 20 万円に案件の歩合を足す設計の図。案件が決まれば月 30 万円、決まらなければ 20 万円のまま

高めに出すつもりでいた 30 万円は、案件が決まってはじめて届く数字です。
その入口を用意できていなかったので、条件のほうが絵に描いた餅でした。

未経験が独り立ちするまでの数年に、受け皿がなかった

研修を受けた 5 人からは、もちろん理由を聞いています。

  • プログラミングの適性がないと自分で判断した
  • 学習量についていけなかった
  • 未経験のうちは案件が取れず、申し訳なさを感じていた

3 つ目は、社員になった人の理由です。

この人については、案件に入れる状態まで届かなかった、という話になります。
学習にも、案件を任せられるようになるまでにも年単位かかるからです。

未経験のうちは案件の面談が通らない

未経験で入社してから待機コストが生まれるまでの流れを示した図

この「案件が取れない」は、本人の努力だけではどうにもならない部分です。

  • 完全な未経験は受け入れる企業側から見てリスクが高い
  • SES (客先常駐) の案件面談に通るのは相当きつい
  • リモートの案件は基本的に決まらない

案件に入れない間も給与は毎月出ていきます。
駆け出しの給与が上がらない理由のひとつは、この待機コストを会社が負担していることです。

僕が駆け出しの頃に就職した IT 企業も、給与は 20 万円くらいでした。
その水準になる理由がいまなら分かります。

駆け出しだった自分の道筋をそのまま当てはめた

僕がたどった順 (職業訓練 → 一社目 → 月 30 万円) と 5 人に期待した順 (入社前研修 → 社員登用 → 案件の歩合で 30 万円) を並べた図

月 30 万円という目安を置いたのは自分の経験が根拠でした。
半年間の職業訓練を受けて一社目を 1 年ほど勤めたあと、僕自身がその水準に乗っています。

同じようにやれば上手くいくだろうとタカをくくっていました。
リモートワークなら駆け出しを裏でサポートできるとも思っていました。

ただ、未経験がリモートの案件に入るのはそもそも難しいままです。
僕のときは、案件を持っている一社目が受け皿になっていました。
その受け皿を、自社では用意できていません。

業務委託のコネがないなら、入口はテスターの常駐案件

途中から「ちゃんと教えさえすれば、未経験でも仕事になる」は幻想だったと考えるようになりました。
教え方の問題ではありません。その数年をどこで過ごしてもらうかを、決めていなかったのが問題です。

自社に業務委託の開発案件のコネがなく、SES に頼るしかないなら、入れる案件は限られます。

  • 開発案件の面談は、完全な未経験だとまず通らない
  • 入れるとしてもテスターの常駐案件になる
  • 通勤も含めて、そこを本人に覚悟してもらう必要がある

ここを最初に握れないなら、そもそも採用するべきではありませんでした。
半年の研修で用意できたのは基礎までで、その先に入れる案件を用意していなかったからです。

好きこそものの上手なれ、は本当だった

やれば誰でもできる、とは今も思っています。
英語がやれば外国語として身につくのと同じで、プログラミング言語もやれば習得できるはずです。

問題は「やれば」の手前にあります。
そこには根気とモチベーションが前提としてあって、続かないと「やれば」に入れません。

好きになれる → 続く → 習得できる、という順序を示した図。根気とモチベーションが習得の前提になっている

僕自身は、テックの学習を好きになろうとしていました。
そして実際にやっていて楽しかった。だから、いまも続けられています。

ここでいう適性は、才能のことではありません。
続けられるくらいには好きになれるか、です。

未経験を採る気は、もうない

次に採るならどうするか、と考えていた時期がありました。
いまの答えは「採らない」です。

受け皿がないからです。
案件の面談は通らないし、教える時間も、独り立ちまでの年数も変わっていません。

受け皿がないので未経験は採らない、という結論と、当時ならやれたこと 3 つを並べた図

そのうえで、当時ならやれたことはありました。

入社後の目標は、期限と処遇まで決めるべきだった

AWS SAA (AWS の設計者向け資格) の取得は入社後の努力目標にしていました。

いま思えば、試用期間を区切って達成できなければ処遇を考えるくらい厳しくしてよかったと思っています。

入社前の無給研修にも、使える制度はあった

本来なら助成金を狙えたはずでした。
制度を知らなかったので、そのまま自腹でやっています。

厚生労働省の職場適応訓練費には、こう書かれています。

職場適応訓練は、実際の職場で作業について訓練を行うことにより、作業環境に適応することを容易にさせる目的で実施するものであり、訓練終了後は、その訓練を行った事業所に雇用してもらうことを期待して実施するものです。

期間は通常 6 か月以内。事業主に 1 人あたり月額 24,000 円が支給され、訓練生には雇用保険の失業給付が出ます。
僕がやった「入社前に半年教えて、良ければ社員登用」に近い形が、公的な制度として用意されていました。

対象者の要件があるので、そのまま乗せられたかまでは分かりません。

無給の入社前研修だと制度の外に出てしまい、有期雇用からの導線には助成金が用意されていることを示した図

他の助成金は、そもそも土俵に上がれていません。

  • 人材開発支援助成金の訓練は、対象が雇用している労働者
  • キャリアアップ助成金は、有期で雇ってから正社員に転換する形が前提

無給の入社前研修にした時点で、どちらの入口も閉じていたわけです。
当時は顧問の社会保険労務士を置いておらず、決算だけ税理士に頼んでいました。
制度を教えてくれる人が、社内にも社外にもいなかったということです。

教える相手を業務委託にするのは、たぶん逆

研修を終えて残った人とは、まず業務委託で組む、と考えていました。
教育にどれくらい時間が要るのかはそこで見える、と思ったからです。

ただ、労働者性の判断基準を読むと、これは逆かもしれません。
厚生労働省は、契約の名称ではなく実態で判断すると書いています。

労働が他人の指揮監督下において行われているかどうか、すなわち、他人に従属して労務を提供しているかどうか

教えるという行為は、この指揮監督にかなり近いところにあります。
教える相手は雇用、教えない相手は業務委託。いまはそう整理しています。

※ この打ち手は、どれも当時は実行していません。業務委託の件だけは当時そう考えていて、いまは逆だと思っている、という話です。

AI が来る前に、答えは出ていた

最後に、いまの話をします。

先に断っておくと、僕が 0 から育てるのをやめたのは 2021 年です。
AI が理由ではありません。

そのうえで、いま同じことを考える人には AI の分も足して見てほしいので書きます。

  • 未経験でもワンチャンあると言えたのは 2025 年の初めまで
  • 自分が若い頃にやらされたような仕事は駆け出しに任せる理由がなくなった
2021 年の判断と、2026 年に見ている AI の影響を並べた対比図

理由は 2 つです。
AI が自分でコードを書いて直すところまでやるようになったこと。
そして QA や設計書づくりを、駆け出しに払う給与よりずっと安く任せられることです。

  • Claude Code の Max プラン: いちばん軽いもので月 100 ドル
  • 実際に払っていた基本給: 月 20 万円

ざっと 13 倍の開きがあります (1 ドル 150 円で約 15,000 円。為替で動くので目安です)。

AI を越えられないのは、未経験に限らない

採る理由が薄くなったのは未経験だけの話ではありません。
もはや僕くらいのミドル・シニアのエンジニアも、AI は越えています。

それでも、0 から育てるのをやめた決め手は AI ではありません。
次の 2 点です。

  • 未経験が独り立ちするまでに何年かかるのか
  • そのあいだ教育にどれだけ時間を使うのか

どちらも AI とは関係のない話です。

これから見るのは、AI エージェントで何をしたことがあるか

0 から育てる採用はしません。
それでも人を採るとき、見るところは変わりました。

特定の言語の経験年数で振るいにかけることは、もうしません。
選考では Laravel で「カレンダーアプリを作ってください」といったコーディングテストを出していましたが、いまは出しません。

選考で見るところが、特定の言語の経験年数から AI エージェントで何をしたことがあるかに変わった図

見るのは、AI エージェントで何をしたことがあるかです。

それでも先に見積もるべきものは変わりません。給与ではなく、独り立ちまでにどれだけかかるかです。

「やった」から、僕は文系出身でもシステムエンジニアになれた。
それだけのことだった。

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